シェルター【HOLY SHIELD】

たった3日のシェルターに行くためにユダヤ人たちはイギリスを目指した。

オーストリアの文筆家、ツヴァイフの著書「地の塩となった人」の一節である。

第二次世界大戦中、多くのユダヤ難民がイギリスのシェルターを目指した。シェルターにいられるのはたった3日間。しかし流浪の民となったユダヤ人にはその3日間があるだけで、次の流浪に旅立つ英気を養うことができるから、と。なんとも切ない気持ちにさせられる。

今、ウクライナの人々を思うとき、同時に私たちに家があることに目を向けなければならない。家があり、帰る場所があり、また行くべき仕事の時間と帰るべき時間が与えられ、そして、居留するのではなく定住できることに目を向けなければならない。また、それと同時に私たちの隣人はもしかしたら、居留者であり、明日のことも明後日の道も、一年後の生活も見えづらい状況の人かもしれない。

他者と比べ、自らを省みて、そして自らの隣人に目を向けることこそ、信仰であると私は思った。隣人を自分のように愛せよ、そして精神を尽くし、力を尽くして神を愛せよ、キリスト教の掟はこのふたつに集約されるからだ。

三段階の思考を踏んでいくことで私たちはきっと自分の十字架が見えてくるのかもしれない。

キリスト教徒にとって3という数字は大きな意味を持つ。三位一体の神、三日目に死人のうちよりよみがえり、またイエス様が十字架に向かう決意をなさったこともまた三回あったそうだ。一度目はフィリポ・カイサリアで。しかしその時弟子のシモンが「そんなことはいけない」と諫め、お流れになった。

二度目はガリラヤを離れる直前、弟子たちもいよいよ何かを感じはじめ、イエス様に詳しく聞くことはできなかったと記事は伝える。つまり悟る機会を与えられたのに、あえて拒否したのだ。

そして三度目は灰の水曜日。この時ばかりは「主が先立ち、自ら先頭に立ってエルサレムに入られた」。そしてその強い決意を見て弟子たちは圧倒されたそうだ。


イエス様は自分に待ち受ける運命をご存知だった。十字架を背負いゴルゴダの丘に行き、死に渡されることも、辱めを受けることも。

弟子たちのように悟らないという選択肢も与えられていた。私欲の選択肢を選ばず、神の御心に従ったところに神の子である所以がある。私たち、凡人と神の子にはこのように愛について大きな差がある。

イエス様が十字架にかけられたとき、群衆たちはあざけった。何も知らない彼らをお許しくださいと祈られたイエス様は単純に許すだけの方ではない。群衆が無関係で、真実を知らないことをご存知だったのだ。

ユダヤ人がたった3日間だけの癒しのために長い旅路の末にイギリスのシェルターを目指したことを、ツヴァイフはシェルターを目前にするまで知らなかったといって自らを恥じた。

たった3日間の癒しの為だけに旅をする人が、現代にもいる。

私たちはツヴァイフのように恥を知らなければならない。

大丈夫、イエス様はきっとこうおっしゃる「何も知らない彼らをお許しください」と。加害者と傍観者では罪の重量が変わってくることはいわずもがなであるから、私たちは早めに自らの罪に気づくべきだと思う。

傍観者は知らない間に加害者になっているかもしれない。自分の身がかわいいのは人間であれば当然だ。無論私も自分の身と身内、家族が大切だから、恥を知り物事に鋭敏でいられるよう努めている。

シェルターは盾を意味するシールドが語源である。攻撃を得意とする人はこの盾の使い方が下手であるように思う。自らの力により頼む人間ほど攻撃を得意としている。弱い人間ほど他者を頼るから大きなシールドとなって互いに守り合うことができるのだろう。

人間は動物の中で一番力が弱く小さな動物だ。人間に与えられた武器は知識と思考力だった。弱い動物には何か補えるものが神より与えられている。私の弱さはシールドを与えられるための大きな強みとなっている。守りが得意なのではない。攻撃が好きではないから、打ち込んできた攻撃に対して応戦しているだけなのだが、いやはや、全部勝ってしまうのだから私は戦いに向いていると勘違いされてしまう。

私たちは互いに守りあっている。私たちは互いに盾となりあっている。


大好きなライオンキングの逸話をひとつ例にとれば、食物連鎖の頂点なる肉食獣を殺せる唯一の方法が草食動物が群れを成し、なだれ込むように崖を降ることだ。

その勢いはたとえ百獣の王のライオンでも止めることができない。


草食獣はもうすぐ王となる。


今こそライオンキングを見るべきだ、誰しもが。



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