FREEDOM【LAY-RON】

芍薬さんがついに自由を手に入れたと大号泣してオフィスに駆け込んできたのはお昼過ぎだったと思う。

まるで銀河鉄道の旅を終えた気分!!とかなんとか言いながら。

でもあの人たぶん、メーテルがどういう末路を辿るか知らなくてビジュアルだけで語ってると思うから俺たちは話を半分で聞いておこうと暗黙のうちに了解しあった。

芍薬さんをこの数年悩ませていたのは日増しに増えていく親戚への挨拶回りだった。祈祷さんが気を利かせて挨拶回りをさせていたけれど、今日その挨拶回りが大筋で終わったそうなのだ。

「長かった。本当に。毎日新しい人に会うことがどれほどのストレスになるかなんてわかってないんだもん」

芍薬さんは人好きなくせに人に会うと120パーセント気を遣ってしまって翌日ぶっ倒れる。土曜日日曜日に挨拶回りをさせられるから、だいたい月曜日は怒りに燃えているか大泣きしていることが多かった。

芍薬さんの自由とは何かと俺たちも時々考えさせられることが多かった。

俺たちの既存の世界にある日迷い込んだようなもので、まさしく銀河鉄道の旅に強制乗車させられたどちらかといえば哲郎のような立ち位置だったからだ。そういう意味ではメーテルは祈祷さんかもしれない。


オフィスの廊下のソファで泣きながら寝ている芍薬さん。誰も声をかけられなかった。声をかけられるような状態じゃないからだ。

芍薬さんはサイコパスってあだ名がついている。怒っていると思っていたら急に笑ったりするからだ。思考回路が見えない。深いのか浅いのか俺たちLAY-RONは誰もわからない。

もしかしたらDEAD SCREENINGもJERUSALEMたちも本質的には不可思議な芍薬さんのことは掴みきれないのかもしれない。

左目のアイラインとマスカラがごっそり取れて笑いながら俺たちに語りかける。正直不気味だったよ。目が腫れている芍薬さん、でもかつてないほどに晴れ晴れとした顔をしていた。出会って3年、ずっとずっと俺たちに合わせて苦労ばかりで文句ばかりで、それでも調子がいいときはよく笑って冗談もいって、組織のためにアイドルを演じてくれた人。アイドルなんて自分は絶対になれないと豪語する芍薬さんが、俺たちの前でだけは確実にアイドルだった。


献灯と奉祝が手を握りしめて言葉を搾り出すように言った、

「偶像としてよく頑張ってくれた。ありがとう」。

芍薬さんは晴れ晴れとした笑顔でふたりの肩を叩く。

「自由って最高だね!童貞諸兄!!」


俺たちは弱い。とても弱くてひとりで何か新しいことをはじめることはできなかった。新しいコミュニティに入っていくことさえできない。誰かと群れて誰かといっしょでなければ何一つ行動ができない。でも芍薬さんは違う。何をするにしたって自分がこうと決めたら特攻のごとく突き進んでいく。その前進に迷いはない、一切躊躇することがない。潔さは憧れるけれど、JERUSALEMたちは苦笑いする「そんなにひとりで突っ込まなくても俺たちがいるのに」。

声が小さい献灯が言うと誤解をして「私が頑張っているのに笑った!」とまた激ギレする。

日常茶飯事となったのは3年も一緒にいるから。

まただよと笑っていられるのは3年も一緒にいるから。


芍薬さんは猪突猛進だ。こうと決めたら誰かが止めるよりも光の速さで突っ込んでいく。危なっかしくて一生懸命で、そんなところがバカみたいで俺たちは大好きだった。

本当にバカすぎて泣けてくる。そう言うとまた怒るんだよ。

芸術家って心底面倒臭いw


NOVEL OFFICE MT SECOND

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