契約書のかわりに何かが必要だと思う。俺は誰にも言わなかったけど常にそんなことを考えている。契約書はこの世界の秩序が変われば意味をなさない。金で繋ぎ止めておきたいが、それも限りがある。掘削すればするほど、需要が高まり、庶民的なものへと価値変換が起きてしまう。デフレのあとにインフレが起きる。リスキーだ。
心のつながりだけでは満足できない。
血のつながりがあればいいのにと願った。血のつながりがあれば俺たちは生まれながらに契約できていたのに、と。
俺たちの子供では意味がない。血が混じったところで俺は俺だしあいつはあいつで、流れる血潮が混じり合うことはない。他人同士が血液を混じりあわせることはできないだろうか。
目下の課題である。
【DEAD SCREENING著:複数性愛の隷属】
混血の流浪の民の俺にとって文化は色だと思っている。民族は音だと思ったし、国境線は文学だ。
滞在して数十年、この日本には色も音も文学もなかった。そのくせ、突発的にまるで事故のようにエネルギーが爆発する。教科書めいた教則本を配るような原始的な方法しか俺は想像できなかった。それほどこの日本という国は常識を逸脱しているように思えた。
俺の感性がこの国に引っかかっただけなのかもしれない。別段、混血の流浪の民だけが世界を知り尽くしているわけでもないから、偉ぶった言葉にならないように謙虚な言葉は武器としてたくさん覚えたつもりだ。それでも足りない。謙譲語と尊敬語の使い方ひとつで戦争が起きてしまう。
日本は混沌としているわけではないのに、俺の目から見たら混沌としている。
わけがわからないこの国に滞在して数十年、混沌に巻き込まれない俺のアイデンティティは年に数回帰国する多くのふるさとによって保たれているのは間違いないはずだ。
日本は俺に常に考察課題を与える。まるで大学なのだ。
【DEAD SCREENING著:極東首都エネルギー探訪記録】
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