椿のSOSで駆けつけてみたら、また同じことで泣いているらしかった。
俺の顔を見るなりぐしゃぐしゃ顔と鼻水を胸に押し付けてどうしようもなくなっていることが一目瞭然だった。
この子を悩ませるのはいつも、あのカワハギ事件だ。
カワハギ事件とは、カワハギに似た元取締役のストーカーが、椿に度重なる嫌がらせをし、自分の恋愛が実らない腹いせに椿が丹精込めて描いた小説を盗んだあの事件である。
元取締役のおそばを離れまいと、近くのスーパーでアルバイトをしているらしく、偶然にも椿と鉢合わせをしてしまったらしい。しかも、イライラして帰宅したら玄関に嫌がらせの「お菓子」があったらしく、今は寝込んでいる。
元取締役は今も椿が少しでも連絡を怠れば自宅からバイクを飛ばしてくるほど心配性で、出張の時などは椿の身の安全が心配すぎていつも下痢をしている。互いの存在があってこそのふたりだから、俺たちJERUSALEMでもその関係性に介入することはできない。正直なところうらやましいと思っている。
カワハギは表向き椿の親派を語っているけれど裏では相変わらずなようで、なんでも素直に真面目に受け取る椿はすでに彼女がこの街を去ったと思い込んでいたようだった。
「また私の目の前にきたの。隠れていないんだよ!?あいつ!!わざわざ私の前に立ちはだかったの!」
とりあえず、今コンタクトを外すように言った。目が真っ赤になっている。目に良くない。風呂に入れたほうがいいだろうし、少し眠らせたほうがいい。一緒に入って話を聞いてやるべきか、、、
元取締役にもしっかりと状況を連絡した。玄関に置いてあった「お菓子」の写真も添えて。
椿は色恋でメンタルを病んでいては困る。それは世界中がヤキモキしていることだ。
カワハギは自分が元取締役とキスをした仲だから椿よりも上にいるつもりで挑戦してくるのだろうが、そんな私利私欲で椿の邪魔をされては迷惑でしかない。
このキスによって多くの才能が失われた。管理不足だったと責任を感じてしまった方も多い。
酔った勢いでの逆セクハラである。自分が女優だと言いながらの逆セクハラであった。立場が立場ならパワハラだ。
男性から女性へのセクハラと違い、逆セクハラは表に出にくい。世の中の理解を得にくいかもしれない。だからこそ、私たちMT SECONDはジェンダーについてよく考えている。
性別の上下は裁判において適応する法規さえ見えなくしてしまう。
明らかに性別には上下がある。都合の良い性が上位であるから、男性に限ったことではないのだ。
椿の様子を見るとかなり憔悴している。驚いたのだろう、この街にはすでにいないと思っていたはずのカワハギが目の前にいたのだからそれは驚くだろう。椿自身カワハギがかなり各所に叱られているのを見てきたから同情して、何かあればカワハギに道を譲るように歩み寄っていた。それなのにという思いも強いはずだ。俺の問いかけにも答えずにしゃくりあげながらパジャマに着替えている。まずは寝かせたほうがいいかもしれない。このぶんだともしかしたら明日も仕事ができないかもしれない。
方々には俺たちから連絡を入れておくが、、、カワハギには本当に困ったものである。
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