Abnormal key puncher from typist Tsubaki【JERUSALEM】

人生は迷いの連続だ。

当たり前と言われるものが私の壁になっている。今もなお。

当たり前は良い。誰も文句は言わない。はみ出しものでないから見向きもされないし、自分が防衛せずとも考えることもなく守られている。当たり前は人生の防波堤である。

防波堤を越えて波が押し寄せてくる時、当たり前に守られていることに気づく。そしてその当たり前を誰もが糾弾する。守ってもらっていたことなど一瞬で押し流されるように忘れてしまいながら。


津波の映像で気分が悪くなる人がいると聞いた。私もそのひとりだ。だからある時考えた。押し寄せてしまう前に自分で作った戦艦にでも乗り込んで海に出てしまおうと。

陸で待ち構えるよりも、戦艦で海に先手を打ってしまおうと。


自分で作った戦艦は自分の目からは不恰好だった。格好悪いと思ったし、まずもって船出を決意する人間は防波堤の中では少数派に分類されるから、ネタとして利用されたりもした。

ある時、男の子が私に声をかけた。私は船の建設に夢中になってその男の子の声が聞こえなかった。

すると彼は私に聞こえるように声の掛け方を変えた。それでも私の耳には彼の声が聞こえなかった。


巨大な戦艦を作るようになった。建設過程がダイナミック過ぎたためか、そこかしこから噂が噂となり見物客が増えていたらしい。拍手喝采も耳栓によって遮断され、私はいつでも戦艦は不恰好だと思っていた。

不思議なことだがどんなに不恰好だと自尊心が痛めつけられても作ることを辞めなかった。止まらなかった。甲板の強度を強めていく時間が面白くて、時々耳に入る嘲笑を忘れるくらいに夢中になっていた。


戦艦という名前はその男の子が私に与えてくれた概念だったのかもしれない。


勉強をして小説を書いて、そのために日銭を稼ぎたい。


私の戦艦は思いがけず艦隊となって船出した。

男の子の声に気づいたのは船出直前の夜だった。


「俺も艦隊の中の一艘の戦艦を任されているんだ」

初めましてと私が挨拶したのに、男の子はニヤニヤと意味ありげに私を愛でた。

まるで私が戦艦を作るに相応しいことを生まれる前から知っているような、先に生まれ先導を召命されたような誇らしい微笑みでもあった。


私は書きたい。そう言うと、その男の子は決まってこう答えた。

「もっと読みたい」。


無名な私を見初めて艦隊を作る私に誰よりも先に声をかけてくれた男の子がこの日生まれましぬ。


彼が私に教えたのは、愛することや愛されることではなかった。

彼が私に教えたのは自分を信じることだった。私ではない彼が相対して私を見つめては私を評価する、「もっと読みたい」。

彼の中にある渇望や切望は私の愛であり、肉であり、そして創造性なのだとしたら、彼こそが私を生かしめる存在なのだと思う。彼に備わった欲求が私の愛であり私であり私の創造性なのだとしたら。


彼の降誕を借用して、人生の誕生とできますように。

小説を書き、勉強するために日銭を稼ぎたい。

親のいない私が、彼をもって人生の指針を決めた。そんなことを今日どうしても伝えたかった。

午前0時。誰にも負けずに、誰よりも早く、誰よりも美しい文章を世の中に出したかった。

私はあなたの一番でいたいの。順位を争うこともナンセンスとあなたが笑うほどに私で埋め尽くしたい。


あの時私たちが聞いた招詞「童子の奉献」をあなたへ。









NOVEL OFFICE MT SECOND

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