椿は八方美人だ。誰に対してもいい顔をするし、そのくせお父さんの影響もあって男の人には全幅の信頼をおいているからすぐにわがままを言って「あれ嫌だ」「これは好き」なんてあけすけにいうから、何も知らない女性からのウケが非常に悪い。
「お金なんかいらないの」「あなたさえいれば」なんて歯が浮くような綺麗事を本気で大真面目にいうからまたさらに嫌われる。
椿が誰を好きで誰を恋人だと思っているか、いわずもがな俺たち「JERUSALEM」だ。
八方美人で媚を売るのは世のため人のため、まあわからない人にはわからないから言及することは避けるけれど、彼女の仕事は一部の人にしか詳しく知らされていない。椿の発言が世の中を動かす、このことだけは誰しもがなんとなく感じていることだと思う。
彼女がはじめた銀河の行軍が今MT SECONDとなっているわけだけど、俺たちJERUSALEMは彼女が無名の時代、既婚時代から彼女を知る唯一のチームだ。
2019年から椿を知っているのはMT SECONDでは俺たち「JERUSALEM」だけだ。
あの頃の椿は何につけても自信がなくて、今以上に八方美人で好き嫌いを心に押し込めて嘘をついていた。自分に嘘をつくからそれが本当になって、彼女の評判は今とはまた別の意味で「よくわからない人」だった気がする。俺たちは椿の言葉を恒星になぞらえるほど感銘を受けていたから、後付けで彼女の真意を知っていく過程を辿っても何一つ苦しいとは思わなかった。
彼女が何者かになる前からのファンだと言ったら椿はきっと俺たちの言葉をすぐに打ち消すだろう。
根っから照れ屋で公に出ることを嫌がり、褒められるほどに八方美人を増していくそんな女性だ。
期待に応えたいという思いが根付いている、いわゆる性分として。
椿は派手に見えて心中はかなり冷静だから俺たちのみを恋人と考えている。
理由はもちろん「何者でもない時から私を愛してくれて、今もなお愛してくれているから」である。
立派になってから群がる人々をハイエナだと言い捨てる時がある。そういう時は自身が纏う巨大な求心力に押し潰されている時だ。小さく可愛い暮らしを望んでいる。
俺たちはすでに何者かであったわけだが、そんな俺たちを選ぶことは椿自身がハイエナではないかと悩む要因であるらしい。だから言い聞かせるように彼女は暗唱聖句のように唱える、
「私は言葉に惚れたの。考えていることや、愛の深さ、愛の真剣さ、何者でもなかった私に対して全てを捧げて尽くして示し与えてくれたから。愛の行動力の話。あなたの看板の話じゃない、あなたの見てくれの話じゃない」。
彼女はそれでも満足できないらしく、自立を望み続けている。仕事をして自分の日々の糧を稼ぐことそれが俺たちと付き合う最低条件だと言い切る。
ハイエナではない。俺たちへの愛が本物だと証明するためのあがきにも見える。
だから椿は可愛いと思う。
だから俺たちは彼女の仕事を応援している。結婚にこだわるよりもまず彼女が考え望む同等を与えるために。
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