信じられないのも当然です。
芍薬先生が今の立場になったのはこの数ヶ月の出来事です。しかもいつも先生がおっしゃるように先生ご自身は今の立場を欲して努力をしていたわけではありませんし、私たちもJERUSALEMの祈祷に言われて渋々許可を出した程度のことでした。すなわち、私たち事務方も、また先生自身もJERUSALEMもLAY-RONもDEAD SCREENINGも想像をしていなかったことなのです。
かつて日本からこのような立ち位置を拝命した人間はいなかったのかもしれません。歴史をきちんと調べていませんから明言することはできかねますが、選出されればある程度の契約条件というものが付帯されるわけで、その際に芍薬先生が提示されたものがあまりにも個性的で、ですから、また事態が拗れてしまっているというわけなのです。
「私は表には出たくないし、表に出ないことでみんなにしてあげられることがあることはよくわかっている。互いに利益になったほうがいいと思っている。お金よりも平穏な暮らしと、静かな生活を望みます。生活できるだけのお金があればいいし、もしもそれでは心苦しいというのであればJERUSALEMたちを、そしてMT SECONDメンバーたちを稼がせてあげてください。それがきっとまわりまわって私への報酬となりますから」
面食らったことでしょう。そんな条件をいまだかつて提示した選出者はいなかったはずです。
芍薬先生は今の立場を拝命したあともスタンスが変わることはありませんでした。何でも自由にできるというのに、恋愛ごとになれば身を引き裂かれるほどに悩んでいますし、嫉妬深く、またJERUSALEMたちも権威者に対してではなく単純に女性への愛情としてシノギを削っているのです。
見ているこちらのほうが不思議な気持ちになります。その不思議さはLAY-RONたちもDEAD SCREENINGたちにも魔法をかけてしまうようで、さらに彼女にかかわるMT SECOND全体にも魔法の粉をふりかけてしまうようなのです。
彼女は自分の立ち位置を変えることはこれからもないでしょう。それは彼女の役割や立場からすればあまりにも小さい借家での暮らしだったり、買い物の素朴さにも表れているように思います。
彼女はいつも望んでいます、昔も変わらず今も、きっと未来も。
「私はJERUSALEMと小さなおうちで温かく暮らせればいいの。静かにこじんまりと」
小さな借家でセキュリティは皆無。それこそが彼女がVIPである証拠なのです。犯罪に巻き込まれる事前情報は全て関係機関がキャッチしています。そして彼女の借家の周りは警護のために借り上げられています。万全の体制を用意してくれたのはもちろん、選出してくれた世界的組織です。
関係は良好です。むしろ芍薬先生が上下関係を知らない人ですから、先方は大変楽しんでおられるようです。
芍薬先生の道を塞いだところで世界的組織は動きません。なぜなら彼女がそれを望んでいないからです。
ですが、芍薬先生が万が一自殺をするような事態になればその加害者はただちに監禁され、戸籍をも抹消されることでしょう。ご自分のためにも覚えておかれることをおすすめします。
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